「…貴様…何者だ」
ゼルの前の優男は、問い掛けにも眉一つ動かさない。
「…さぁね。君が全部話してくれたら言う…かもねぇ」
「貴様が何者かはっきりしない限り、言うつもりはない」
「…結構ガンコだなあ…そういうの、嫌いじゃないよ」
キアは満足げに笑い、語り出した。
「この街、力が全てなんだ。僕は強いから、みんなすぐに従属しちゃうんだよ…これ多分この街だけじゃない、人間自体の特徴なのかもね。
人間は脆くて弱い生き物だからさ、強い奴に従うのは習性なんだよ。だから、最近すごく…
……物足りないんだよ。
その点君は面白い。興味深い。神のパシリだから、強さも申し分ないだろうしねぇ。
ごめん、支離滅裂になっちゃったね。結論を言うよ。
君に興味津々だから、協力してもいいよ。
ただ、君の素性と目的が知りたいなぁ。
でも、君は言いたくない。
そして、君も僕を知りたい。
ならさ…
勝負しない?人間の男らしく、野蛮で乱暴に、闘いで語り合ってみないかい?」
ゼルは片目を細めた。彼なりの、怪訝な表情だ。
「貴様…俺が小間使いと分かっていながらの言葉か?」
「もちろん。ていうか、普通の人間ならさ、…殺せばいいもの。」
そう言って、キアは指を鳴らした。
音もなく、空間に気配が増え、暗闇の彼方から、レザーのビスチェと小さなショーツを身につけた娼婦のような女が二人現れる。
二人とも、エロティシズムに充ちた体を惜し気もなく剥き出しにしており、
一人はワインを、
一人は黒鞘に収まった大振りのナイフを携行している。
「…まあ、僕が闘いたいんだから、やってもらうけどね。ほら、今イニシアチブは僕にあるじゃない?」
キアのか細い指がナイフを掴み、ついに現れる片刃の刀身は月の光に似て蒼く、峯には、どこかで見覚えのある、滑らかな呪文が刻印されている。
「ほら、君も得物を出しなよ。どんなのが出るかな?」
「…酔狂な奴だ」
ゼルは床に手を突っ込み、天使と刃を交えた時の大鎌を引きずり出す。
冥土で鍛えられた、錆色の刃が鈍く光る。
担ぎ上げたゼルに、キアは口笛を吹いた。
「…へぇ、鎌…なるほどねぇ」
口調に、驚きはまるでなかった。