視線が重なるのは、数えていればそれほど長い時間ではない。
しかし、視線が重なり合っている者同士の時間は一瞬止まり、気が遠くなるほどゆっくりと流れて時が凝縮する。
本を読む時の活字の向こう側にあるものを読み解こうとしているようなあなたの黒く澄んだ瞳は、変わらないままに私を見ていた。
私が何をしに屋上まで来ているのか、あなたに話すことがあるのか、話すことは何か。話すことは自分の彼氏のことか。友達の彼氏のことか。
「あなたも大変だね。友達のためにその子の彼氏のこと話にきたの。」
あなたは、私に今まで面識がなかったからそう思ったのであろう。
「ごめんなさい。私、友達に自分の彼のことを話にいかせてどうにかしようとするのが嫌なの、本人とじゃないと私、何も話すつもりない。」
淡々と話した後、あなたはそのまま読み差しの本に視線を移した。
「違います。私、2年A組の永井千襟です。お世話になっていた永井淳の妹です。」
あなたはお兄ちゃんの名前を聞いて戸惑ったのか、私が妹であることに戸惑ったのか、予想しなかった話に戸惑っているのかは分からないけれども、あなたの瞳は困惑して空を仰いていた。