美香の胸に、ふつふつと怒りが沸き上がった。
「……あなたは、そんなことのために覇王と手を組んだっていうの?」
声が震えないように必死で抑えた。番人はしばらく黙っていた。しかし、小娘の言うことにこれ以上怯む気もないらしく、退屈そうに床の上に寝そべりながら答える。
「そうだ。さっきからそう言っているであろう。」
「あげるわ。」
主語も目的語もない台詞に、番人はいぶかしげに顔を歪めた。
「なんだと?」
「あげるって言ったのよ。私の、光の子供としての想像の力を、全部あなたにあげる。あなたはそれが欲しいんでしょう?だから覇王の言いなりになっているんでしょう?」
「その代わり、」と美香は言葉を続けた。
「私の想像の力を犠牲として捧げるから、耕太を“闇の小道”から出して。それが条件よ。」
美香と番人はしばし睨み合った。ライオンは、たかが十二歳の小娘が、それらしく交換条件を持ち出してきたことが気に食わないらしく、グルルルル、と喉の奥で威嚇の唸りを上げている。美香は緊張に強ばる指を、一本一本曲げながらなんとか落ち着こうとした。これは賭けだった。命の代わり、しかも美香にとって重要なもので、尚且つ取られても日常生活に支障がないものを考えた場合、美香にはこれしかなかった。ある意味、番人がヒントをくれたのだ。彼が光の子供の想像を好物とするならば、少しは心が動くはずだった。美香はその揺らぎに賭けた。
「美香、気をつけて。」
ホシゾラが背後から囁きかけた。言われなくてもわかっていた。番人はどうみても機嫌が良さそうには見えない。姿勢こそ寝そべった状態のままだが、赤い瞳は、肉食の本能も露に、美香を真っ直ぐに射抜いている。
「……小娘。」
先程より低い声が、ライオンの喉から漏れた。
「……はい。」
美香は、慎重かつ丁寧に答えた。
「そなた、確か名前を美香と言ったな。」
「はい。」
「我は……そなたが“生け贄の祭壇”にやって来たら、そなたを殺すようにと、覇王から言い遣っておった。」
「……!」
美香はあまり動揺しないようにした。あの残酷な男のことだ、あり得ない話ではない。しかし、なぜそんなことをわざわざ教えてくれるのだろう?
番人は一度間を置くと、呟くように言った。
「だが、そなたは我が思っていたより、多少は利口なようだ。」