「あるいは、蜘蛛の糸。」
そう言って、しおりのリボンを指先で摘んだ。
しおりはあなたの指先で宙に浮いてひらひらと揺れていた。
「私が地獄にいる罪人で、天国から蜘蛛の糸を垂らして貰えたら掴まないでそのまま見てる。」
地獄、罪人。
指先で揺れるしおりを見守るように見つめて、哀しげに弱く微笑んでいるあなたの顔に似合わないおどろおどろしい怖い言葉がひらひらとあなたの口から吐き出されて宙に浮いた。
「糸が切れてまた地獄に堕ちてしまうなら、糸を掴まないでいつでも天国に登れる望みをずっと見ていたい。」
消えかかりそうになっていた飛行機雲はまだ途切れ途切れに残っていた。
あなたはまた空を見ていた。
「糸、切れちゃうって決まっているのかな。」
私も空を見た。
切れない糸はきっと有るはずで、あの飛行機雲みたいなまばらな雲の隙間から目の前に垂れているはず。
誰の目の前にも、きっと。それも一本だけではないと思う。
「掴まなければ切れる心配もないけれど、登った先には見てるだけじゃ行かれないよ。」
指先で揺れているしおりに視線を戻して、あなたは溜め息をついてまた哀しげに弱く笑った。