引っ越して早々のストーカー(?)被害は私にとってかなりショッキングだった。運の悪い事に転居報告書は会社に提出済みで、重ねて引っ越すなんて事は出来なかった。
「・・・どうすれば良いと思います?」
頼った先は部内唯一の同性の先輩だった。昼食時間にスゴく嫌な話をしてくる後輩だと思ったのだろう、眉間に皺を寄せて、しばらく黙って鯖の味噌煮を摘まんでいた。
「まあ、誰かと一緒に帰るしかないわね」
鯖の皮を残して、お茶をすすろうかという段でやっと答えた。
「あの・・・」
「私は無理よ。だって方向が違うし」
何も言ってない時点で全てお見通しだった。互いに慣れが過ぎるとこういうときに損した気分になる。
「四の五の言ってたらヤラれちゃうよ。誤解の無いように説明して・・・そうね、藤堂くんなら年下だから同輩でもごり押ししては来ないでしょ」
『ヤラれる』の表現はこの状態で聞くとかなり嫌だった。更に藤堂は、候補者の一人として考えてはいたけれど、一緒に歩きたくはない人物だった。
「ほら」
先輩は私の顔を真っ直ぐ指差した。
「何ですか?」
「だから、四の五の言っちゃいけないの」
「私、何も言ってません」
「顔がそう言ってる!全く、私に相談するのが間違ってるわ」
「でも、他の人に相談すると、なんだか、その、誘ってるみたいで」
「知らない知らない!前から言ってるでしょ。自意識過剰は事故のもと。ほら、まあ、藤堂くんに決定。ね。」
先輩は一つ溜め息をついて、もう一口お茶を飲んだ。
「しょうがない。藤堂くんには私から説明しておいてあげるから。ほら、元気出しなさい」
泣き出しそうな私の顔を見て、先輩は小さな助け船を出してくれた。
藤堂は鼻息が荒い。テンションも高い。そんな状況でまくし立てるように話しかけてきた。
「・・・意外だね」
意外でわるかったな!
「・・・ホントに僕なんかで良かったの?」
良くはないし、部屋にも絶対上げない!
言葉の端々に表れる猥雑感が堪らなく嫌だった。多分、三日後くらいには本気で口説いて来るはずだ。
でも、とりあえずこの日は
「ありがとうございました」
と敬語で距離感を演出して帰ってもらった。
「キック〜キック〜」
役に立たない厄除け猫を抱き上げる。子猫だから当然の事だけど・・・。
つづく・・・