子供のセカイ。89

アンヌ  2009-11-05投稿
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急に番人の目から、美香を圧倒するような力が消え、美香はホッと肩の力を抜いた。
「ありがとう、ございます。」
褒められたようなので、一応お礼を言っておく。番人はのそりと起き上がると、赤黒い円の淵ギリギリまで、美香の方に近づいてきた。
「美香とやら、前へ来い。」
「……。」
「どうした、まだ我を恐れるか。せっかくそなたの言う条件とやらを呑んでやろうと思ったのに。」
そこまで言われれば、近づくより他にない。だが、実際それはかなり勇気のいることだった。ただでさえ巨大な体を持つライオンに近寄るだけで怖いのに、その上相手は人間並の知能を持っていて、しかも敵である可能性の方が高いのだ。今でこそこう言っているが、さっきまで隙あらば美香を殺そうとしていた奴だ。美香は、うるさく鳴る心臓を必死で押さえつけ、ライオンに近づいた。ここで怯えていたら、耕太を救えない。その一念のみで体を動かした。今はこの番人だけが頼みの綱なのだ。信じるより他にない。
「よし、よし。」
美香がちゃんと触れられる距離まで近づいたことに満足したのか、ライオンは愉快そうに頷いた。美香はドキドキしながら、ライオンの赤い目を見つめた。
「……それで、“闇の小道”への扉を、開けてくれるの?」
恐る恐る尋ねると、ライオンはぶるるっとたてがみを振った。
「犠牲の方が先だ。……しかし、光の子供というのは、素直でいいなぁ。」
純粋に言っているのか、悪意を持っているのかわからず、美香はびくりと背中を縮めた。ライオンは今にも気が変わって、美香に襲いかかってきそうに見えた。
番人はあきらかに性格が悪く、そんな美香の様子を楽しんで見ているようだった。
「そんなにびくびくするな。まるで兎か鼠のようだぞ。」
小馬鹿にしたように笑われても、美香は反論しなかった。それより今は、早く取引を成立させて耕太と自分の無事を確保する方が優先だった。
「私は何をすればいいの?」
番人は真面目な顔になって答えた。
「円の中に手を入れ、我の前足に重ねろ。そうすれば力は我に渡る。」
美香は今度は躊躇わなかった。さっと円の中に手を差し入れ、ライオンの大きな前足に重ねる。
「勇敢な小娘だ。」
感心したような声が頭上から降ってくると同時に、美香は、急に体中の力が抜け、目眩を起こしそうになった。

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