神のパシリ 23

ディナー  2009-11-06投稿
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「…さて、僕の勝ち…でいいかな?」

キアはニヤニヤ笑いながら、ナイフの切っ先をゼルの首筋に撫で付ける。
地獄の蜘蛛の糸のように、赤い筋がゼルに無数に走る。

「…貴様の素性が先だ」

ゼルは口元を引き絞り笑い返す。

「…強情だなあ」

蒼いナイフが、音もなくゼルの二の腕に沈む。

血が、蒼いナイフに馴染んで紫色に光る。

「もう意地の張り合いはよそうよ。…殺しちゃうよ?」

「貴様もな」

「…僕のどこが?今ピンチなのは君だよー?」

「どうかな」

もう片方の二の腕にナイフが刺さろうという時、

ゼルは何事か呟く。

人には理解できない言語のものを。

それは、肉を破る僅かな音にすら掻き消されていた。

「…次は足かな」

キアが、ナイフを肉から抜き放つ、その時。

滅亡を、死滅を感じさせる空気。

背後にただならぬ気配を
察知して、キアは思わず振り向いた。

そこには、ゼルが手放しているはずの死の大鎌が、ひとりでに動き、キアの背後に忍び寄っていたのだ。

キアがぼやいた。

「…あちゃあ…」









キアの、ナイフを持っていた腕が宙を舞う。

続いて、キラキラと飛散する血飛沫。

そのまま、大鎌は宙を踊り狂い、キアは断たれた腕を掴み跳び下がる。

踊り続ける大鎌は、まるで意志があるかのように、ゼルを束縛する鎖だけを見事に切断する。

両の二の腕から血を流す主の手元に、かしづくようにおとなしく、大鎌は収まった。

「形勢逆転というのは、こういう事じゃないのか…?」

ゼルは、キアに向けて皮肉めいて笑いかけた。

それでも、キアの目は細いままだ。もしかして元からそんな細さなのだろうか。

「…分かった、分かったよ。僕の負けだ。」

そう言ってはいるが、キアはまだまだ余裕のようだ。冷静に腕の切り口同士をくっつけている。

「…ちょっと休ませてくれないか。血が足りないみたいだ」

「…いいだろう」

お互い血を流しながらも二人はその場に座り込む。



キアは、唐突に切り出した。



「…僕も、パシリなんだよ。……神様のね」



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