以来、カチュアは母親の代わりをしようと努力するようになった。
とは言っても、“面倒見のいい姉”から“母親”という単純明快な矢印が引かれただけで、根本的には何一つ変わっていなかったわけだが・・・。
「んじゃ、行ってきます。」
と、フェレットはさっと立ち上がると、勢いよく家から飛び出した。
‘気をつけて行くのよ’という姉の声が聞こえた気がしたが、何も言わないでおいた。
いい加減、やめてほしいとも思う。
俺の『カルティミア』になりたいという夢を後押ししてくれるのは嬉しいが、そのために自分の夢を諦めるのはどうなんだろう。
本当は有り難うと素直に感謝すべきなのだろうが、どうにも合点がいかなかった。
むしろ、姉が見返りを求めているように思え、どうもやりきれない気持ちになった。
頼んでなんかないのに、、。
無理してくれなんて言ってないのに、、、。
そんな心と裏腹に、タジキスの空は雲一つない快晴で、日光が眩しい。
しばらく、水色の空を眺めていると、西の方に大きな飛行船がのんびりと飛んでいるのが目についた。
それを見た途端、フェレットは心が踊った。
もやもやが一気に消えた。
あの飛行船に乗って一度でもいいから空を見たい。
純粋にそう思った。