子供のセカイ。91

アンヌ  2009-11-08投稿
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美香がホシゾラに手伝ってもらい、二人がかりで衰弱した耕太を運んでいる間、ジーナは何も知らずに、眠っている王子の傍らの椅子に腰かけていた。
王子の部屋は、薬品独特の匂いに包まれていて、ジーナは思わず鼻にしわを寄せる。
ここへ来る前に医者とすれ違い、少し話をした。頬のこけた眼鏡の男は、薄汚れた白衣を来ていて、あまり有能そうには見えなかった。王子の現状を厳しく問いただすジーナに対してさえ怯えていたし、しどろもどろに呟かれたのは訳の分からない医術用語ばかりで、ジーナは簡潔に礼だけ言ってその場を去った。
これでもイライラする気持ちを抑えた方だ。男たちと対等に張り合って騎士を務め、砂漠の管理を双肩に担ってきたジーナは、自分に厳しい所があるが、男に対してはなおさら厳しかった。本来なら、その医者をつるし上げてでも、確実に王子を治すよう約束させるくらいはするのだが、流石に何の見返りもなく王子を見てもらった後にそんなことをするほど恩知らずでもなかった。
そして、今に至る。
頭に包帯を巻いた王子は、美しい横顔を真っ直ぐ天井に向け、瞼を頑なに閉ざしたままだ。ジーナは何度か呼びかけたり、話しかけたりしてみたが、何の反応も帰って来なかった。
「……ハァ……。」
溜まった息を吐き、肩の凝りをほぐす。どうもダメだ。体力には自信がある方だったが、こういうのは向いていない。いつまでたっても不安が消えず、気の抜けない状態。病人の傍らに座ることが、これほど神経をすり減らすことだとは思わなかった……。
ジーナはふと、自国の王アバンドが、一度だけ病に臥せっていた時期のことを思い出した。あの時は心底肝を冷やした。この人が死んだら生きてゆけない、直感がそう告げており、ジーナは冷静になることもできず、ただ周りの宮殿の者たちに迷惑をかけいただけだったような覚えがある。
(おかしいな。こいつとはまだ出会って間もないなのに、今、あの時と同じくらいの恐怖を感じている……。)
ジーナは、はっ、と息を吐いて自嘲した。胸がえぐれるような痛みが走った。このまま王子が目覚めなければ、美香に本当のことを言わなければならない。もう二度と顔向けできなくなるだろう。美香に、アバンドに、そして他でもない、今こうしてジーナのせいで眠り続けている王子に……。



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