あんなこと、
もしも最後の言葉だってわかってたら言わなかったのに。
……絶対、言わなかったのに。
あぁ、またくだらないこと考えちまった。
ほんとにくだらねぇ…。
いくら悔やんだって、仕方ないのに。
滝部俊太はワックスで固めた金髪を乱暴に掻き撫で、己の淀んだ感情を無視した。無視していると、思い込んだ。
『1ー3 メイド喫茶へようこそ』。
でかでかと教室の前に掲げられた看板に、彼女は無言で眉を寄せる。
「なんだこれは…」
自分が聞いていたのはこれと真逆の『執事喫茶』だ。
これでは話が違う。
一体何のためにバイトを休んでまで高校のちゃちな文化祭に出向いたのかわかりゃしない。
看板を見た瞬間、中に入ろうという気は一気に頂上から底辺へと落下した。
一言文句を言わないことには収まらない。
しかし文句を言うにはこの中に入らない限りあいつに会えない。
意を決して山中伊織はその長くサラサラのポニーテールを揺らし、キビキビした足取りでいざドアを開けようとーーーした時だった。
それは、自分が開ける前に勝手に開いた。
と同時に大きな怒声が部屋から聞こえてくる。
「何のつもりだよ!お前俺にはぜってーやらせないって言ったよな!?」
「いやー、それがさぁ、ちょっとお前にやって欲しいって言う奴が多くて…」
「ああ!?誰だそいつら!全員名前上げて言ってみろよっ、もう何も口きけねぇようにしてやる!」
「ま、まぁまぁ、落ち着けって高倉…」
「こんなカッコさせられて落ち着いてられる奴がどこにいんだよ!?それとも何か、俺が納得出来るよーなまともな理由が存在すんのか?なら聞いてやるから30文字以内で答えてみろよ!!あぁ!?」
「……何やってんだオマエラ……」