それからの私は、今までにないくらい練習を頑張った。そして昔サボった記憶を思い出しては、それを酷く憎んだ。
引退試合では本当にいい結果を残すことができた。
このままの調子で、昇段審査を受けられたらとさえ思えた。
昇段審査まで残り2日くらいになった、8月の第一金曜の事だった。
――祖父が、倒れた。
元から通院は繰り返していた。だから今回も大丈夫だと思っていたのに。
…なのに。
祖父は、そのまま旅立っていった。
そんな中で、ふと浮かんだある考え。
(昇段審査、受けれないの…?)
…私は何ということを!!
私は、自らが産み出した悪魔のような考えを呪った…。祖父が死んだと言うのに、私の今の思考は何なんだ!?
私が病院で泣いた本当の理由は、祖父との死別の悲しみじゃなかった。
…好きな人を見ることさえできないという悲しい現実と、自分への絶望だった。
昇段審査1日前。
祖父の死後1日。
信や…剣道部の後輩たちは、何をしているんだろう?
…そんなことを考えては振り払い、考えては振り払いを繰り返し、お経を聞いていた。
その夜、信じられない事が起きた。
「信…!?」
学ランを着た信が通夜に来ていたのだ。
「おい」
「…何?」
「おれたち、絶対絶対受かってくるけん!!」
信は、にかっと笑って利き手で握り拳を作った。
「…うん…ッ」
私は、強く頷いた。