ゼルは苦笑した。
「…俺が思うに、推測だが、そいつは死体達の魂に、何らかの影響をもたらしている。だから…
魂喰い…
というのはどうだ?」
キアはぱちぱちと乾いた拍手をした。
続いて、女従者二人が打鞭を脇に抱え拍手を送る。
…シュールな光景だ。
「いいね。いかにも、死の神に、いや神そのものに仇なす感じがいい。じゃ、それにしよう。
続いて、情報の整理をしようか。
メッツェ翁から話が来た時、ある程度部下の話をまとめてみたよ」
女従者の拍手が止まり、部屋は空気を引き締める。
キアの説明が始まった。
「まず、今まで確認された死に様なき死体は少なくとも100以上。僕も部下もさして気にしてもいなかったから、実際はもっとあるかもね。
みんな外傷はなく、病を患っていた者はいない。どうも若者が多いみたいだ。
この街にはハイエナみたいな死体あさりがうじゃうじゃいるから、損傷してる死体も怪しくないとは言えないね。
そうなると、その…魂喰いが一体どれだけヤッたのかは分からないな。
死体の状況は、話では生きているかと見間違うほど生きている状態に近い状態で死んでる。
多分…魂を抜かれているか…」
「奪われたか…文字通り喰われたな」
「…だね。病人、老人を狙わない所を見るとますます怪しいなぁ。
…さて、どうする?」
「情報が少ないが…
ねずみ捕りでも仕掛けるか?」
ゼルの言葉に、暗くキアが笑う。
「悪くないね。うってつけの人間がいるよ……………もし、魂が相手の狙いならね」
「…レミーシュか」
「御明察」
ゼルは複雑な気持ちになった。
助けられた限り、彼女には恩がある。
にも関わらず、得体の知れぬ怪異のための撒き餌にするのか。
本来、死の小間使いであるゼルに感情は不要だ。
だが、彼女はゼルに、ただの兄以上に慕った人間の面影を重ねている。
その気持ちに嘘も裏もない。
その気持ちすら、漆黒の深淵に引きずり込むのか。
見透かすようにキアが口を開いた。
「多分、彼女なら心配いらないよ。
次の言葉にゼルは耳を疑った。
「……多分、彼女のバックには、光のパシリがいるからね」