「……すまなかった。」
ジーナは心から謝罪した。厚い毛布の上にだらりと力なく置かれている王子の白い手を取り、両手でぎゅうっと握り締めた。
王子の腕には包帯が巻かれ、覆いきれていない部分からは生々しい刀傷が見えている。ジーナはその傷をいたわるようにそっとなぞった。痛みさえ感じないほど深い眠りにあるのか、王子はやはりぴくりとも動かなかった。泣きそうになっている自分に気づき、ジーナは王子の手の甲を額に押しつけたまま、じっと込み上げてくる嗚咽を堪えた。
どれくらいそうしていただろうか。
気づいたら王子の傍らのシーツに突っ伏すような形で眠ってしまっていた。ふ、と意識が覚醒し、顔を上げれば、ガラスのない窓から、直接熱い西陽が射し込んでジーナの頭に当たっていた。どうりで暑いわけだ……。ジーナはボリボリと頭をかくと、しょぼつく目を擦りながら、何気無く王子の方を見やった。
心臓がぎくりと強ばった。
金色の睫毛に縁取られた金色の瞳が、真っ直ぐに石の天井を見上げていたからだ。
ジーナは声も出ず、目の前の光景を眺めていた。王子は自負するだけあって、人形のように美しい顔をしている。目を開いているというのに、まばたき一つしない彼は、本当に人形になってしまったようで、生きている気配が感じられなかった。ジーナは話しかけるのを躊躇った。彼は、本当に目が覚めたのだろうか……?それともこれは夕日が見せる幻影か、はたまた夢の続きなのか。
「……ジーナ、」
小さな口が動いた。掠れたような声が、確かに王子の喉から漏れた。
王子の金色の瞳が、きょろりと天井からジーナに向けられた。
「手、痛いよ……。」
王子の手は、寝ている間もずっと握っていたため、未だジーナの大きな手に包まれたままだ。
つながれた手。動いている王子。意識のある王子。それらをようやく認識すると、ジーナの両目から自然に涙が流れていた。
声もなく泣き続けるジーナを不思議に思ったのか、王子はきょとんとした顔をしている。
「……すまない……!本当にすまなかった……!」
ジーナが何を謝っているのか気づいた王子は、静かに頭をふった。
「謝らないでよ。傷を負ったのは僕のせいだ。僕が弱いからいけないんだ。……ところで、ここは一体どこなの?」