「じゃ、悪魔の待つ家に帰るわ。しゃーねーからよぉ…はあ」
「うん、じゃあまた明日」
「おー」
教室を出ていくその後ろ姿を最後まで見送り、中村心は思った。
いつか彼が広い光の下で自由に出来る日が来れば良いのに、と。
『では今日も依頼主の希望を叶えてくださる空様の御登場です!』
ババーン!
耳障りで派手な演出音と共に画面に現れる険しい表情の爺さん。
うさんくせえな。くさすぎる。
冬矢は馬鹿らしく思いながらぼーっとテレビを眺めていた。
隣で伊織も冬矢と同じくテレビをじーっと見つめ、いやむしろ睨みつける。これまた目つきが悪い。
姉弟そろっての仲睦まじい光景であるが、二人を取り巻く空気は不穏である。
明らかに家族段落図ではない。
いい加減我慢するのも嫌になった冬矢は伊織に番組を変えようと十度目の提案をした。
「なぁ、こんなの見たってつまんねぇよ」
「駄目だ」
「なんでだよ…おい、よく考えてみろよ?これを見た後に己に一体何が残る?無だぞ、無!あったとしたってろくなもんじゃねぇっ」
「うるさい。私だってこんなものつまらん」
はあ!?
じゃあ何で見んだよ!という最もな弟の疑問に姉はテレビから目を離さないまま、さらりと答えた。
「この胡散臭さが良いんだ」
「…は?」
「人間はどこまで目に見えないものを信じれるのか、どこまで愚かなのか観察するのが楽しいんだ」
「伊織…お前意味わかんねぇ」
「意味わかんねぇで結構。お前にわかってもらう気なんて毛頭ない」
「……あっそ…」
「お前まで一緒に見る必要はないんだぞ?別にあっち行ってればいい」
しっしっ、と手であしらわれて、しかし冬矢は動かなかった。もちろんテレビを見たいからではない。
コタツは今座っているこの居間にしかないからだ。
諦めてテレビを無視して机に突っ伏す。