資料室から現れた彼女に招かれた火葉は今、彼女から事情聴取を受けていた。
「なるほど、この怪我について怒って彼に喧嘩売ったって訳ね。」
ちょん、と人差し指で指すのは頬についた絆創膏。
三日前の戦いでかすった時につけられたものだった。
「質問ー。」
「はい、手塚火葉くん。」
「俺、まだ君の名前を聞いてないんだけど。」
「あぁ、忘れてたわ。」
本当に忘れていたのだろう。
しかし彼女の態度には反省の色が全く見られない。
「私は藤阪若菜。
二つ名は【杠】よ。
で、こっちの早稲田は【不知火】。」
「二つ名…?」
「そう。
異能力者としての偽名みたいなものね。」
説明をする若菜は至極めんどくさそうだった。
「そうねぇ…手塚…火葉…。」
「若菜?」
「決めたわ、早稲田。
彼の二つ名は【時雨】よ!」
「「…………は?」」
「……若菜?
お前、自分が何言ってるかわかってるか?」
早稲田が恐る恐る若菜に問う。
その声音は少し怒っているようにも感じられた。
「勿論よ。
私はこれから彼の『仕事』を手伝うことにするわ。」
「けど若菜!
こいつらは『あいつ』をっ…」
「黙りなさい早稲田。
嫌ならアナタはやらなくていいわ。
それに、『彼』のことはもう終わったことよ。」
……『あいつ』?『彼』?
若菜が言い切ると早稲田は何も言わず資料室を出ていった。
「まったく…。
まぁいいわ。じゃあ火葉くん、私はいつでも資料室にいるから手が必要ならいつでもいらっしゃい。」
若菜の微笑みは優しかったが同時にどこか哀しそうだった。