「さすが、聡明かつ狡猾な魂の監視者は違うねぇ」
ゼルは煙草に火をつけた。
すっ、と女従者が灰皿を差し出す。
「…つまり、お前の考えはこうだ。
もし、魂喰いが魂になんらかの影響、関与を持っている場合…かなり可能性は高いな…、それは人外の者。
すなわち、神の創り出した存在である可能性がある。
当然、魂喰いには主がいるかも知れないわけだ。
それが何の神だとしても、自らの創り出した存在を消される事は決して気分のいいものではない。
最悪、神と神による戦火が再び起こりうるかも知れんし、遺恨は残るだろう。
…その汚れ役は、我が主にはしたくないと、俺もお前も思っている。
そこでレミーシュだ。
彼女には、ほぼ確実に光の小間使いがついている。
彼女が危険に晒されたら、必ず救いに来るだろう。
それが己を守る手段でもあるからな。
レミーシュを狙った魂喰いは、光の小間使いによって裁かれる…という筋書だ…。
そこには、死の神も、月の女神も関与はしていない。
ただ、絡んだ因果を利用しただけにすぎない…」
「そゆこと。我ながら、いい謀だよねぇ」
決して、レミーシュに恨みがある訳ではない。
だが…
パシリにとって、感情は不要なモノだ。
情けも、容赦も、必要ない。
人間が、神が創りだした道具であるように、
パシリも、神の創りだした道具であり、
人は、パシリにとっても道具だ。
道具が、道具に思い入れを持つ必要はない。
ゼルはそう考える事にした。
おそらく、キアも同じ考えなのだろう。
蒼煙色の瞳は、細い瞼の檻の中で、嬉々としている。
浮かんだ謀の方が、今のキアを満足させているようだ。
「さて、じゃあ次は、街の見取り図を見ながら配置を検討しようか」
ここで初めて、女従者が手にした打鞭を使う。
二つの打鞭が、今二人がいるアジトに指された。