私は状況を理解できなかった。
スケッチブックが私達の方に崩れてきたのは分かったけど、
こんなことになるなんて・・・。
晃輝先輩は私を抱きしめるような形になっていた。
顔と体が近い。
一気鼓動が早まる。
「あ、ゴメン・・・。」
先輩は一瞬顔を赤くして、
慌てて私の体を離した。
「すみません・・・。」
「ってか、大丈夫?怪我ない?」
「はい、大丈夫です・・・。」
「ゴメン、咄嗟のことだったから・・・。」
「いえ、良いんです。
それより・・・ありがとうございます。」
「ははは。良いよ。
あ、コレ、楽譜。」
「ありがとうございます。」
何事も無かったかのように楽器庫を出る。
やはり、さっきのこともあってか、
気まずい雰囲気が流れる。
でもそんなことどうだって良い。
嬉しかった。
あんなとこで抱きしめられるなんて思っても無かった。
何よりも、私を守ろうとして、
身を挺してくれたことが嬉しかった。
そのあと、パーカスパートと先輩で、
質問の時間を取ったり、
一緒に練習したりした。
晃輝先輩は妙に明るかった。
来るのが2回目なためか、
慣れてしまったのだろう。
楽しい時間はあの時のようにすぐ過ぎてしまい、
半日を終えようとしていた。
家路に着こうとすると、七海が妙に上ずった声で
話しかけてきた。
「紅璃!!今晃輝先輩、先生と話してるみたいだったから、
ちょっと待ってようよ!」
「え?待ってるって・・?」
「もう、馬鹿だなあ。晃輝先輩を待つに決まってるでしょ。
一緒に帰るの!
私は途中で消えるからさ。」
「え〜。無理だよ〜泣」
「良いじゃない。せっかく遠いなか出向いてくれてるのに。」
「え?遠くからって?どういうこと?」