ジーナはなんとか気持ちを鎮めながら、ここが“生け贄の祭壇”であること、気を失った美香と王子を担いで領域を渡ったこと、ホシゾラや医者に出会い、彼らに助けられたことなどを話した。そして美香が今、本来の目的を果たすために儀式場に行っていることを。
しばらく黙って話を聞いていた王子は、やがてぽつりと言った。
「ジーナが来てくれて嬉しいけど……あなたは、領域を越える時、犠牲として魔力を失ったんだね。」
ジーナはバッと顔を上げ、信じられない思いで王子を見た。
「お前、いつから気づいて…!?」
「そりゃ、わかるよ。僕は人一倍魔法に敏感なんだから。だいたい、ジーナが持っていた魔法消去の鏡は、一般人が持てるようなものじゃないしね。」
一つ前の領域で、最初にジーナに出会った時。リリィの魔法に当てられて弱っていた王子は、ジーナが持っていた鏡の欠片によって助けられた。
(あの時からすでに見抜かれていたというのか……。)
だとしたら、案外侮れない奴かもしれない。貧弱さを馬鹿にしたこともあったが、これだけ洞察力があるならば大したものだ。
それに、忍耐強さも持ち合わせている。ジーナは頭の包帯に触れて顔をしかめている王子を眺めた。美香の話を聞く限り、王子は魔女というものをかなり怖がる質だった。それなのに、ここに至るまで平然とした態度を貫いてきた。本当はどう思っていたのかはわからないが……。
ジーナは椅子から立ち上がると、王子から距離を取って壁に寄った。
「私が怖いか?」
静かに尋ねる。王子は一度目を伏せると、首を横にふった。
「いや、怖くない。」
「今はそうかもしれない。私にはもう、何の力もありはしないのだから。だが、以前はどうだったんだ?お前は魔女が嫌いなのだろう?」
王子は一瞬、躊躇うように視線を泳がせたが、やがて決意した顔でキッパリと言った。
「正直、めちゃくちゃ怖かった。話すたびに声が震えそうだったし、近づいて来られたら逃げたい衝動に駆られてた。でもリリィのことがあったばかりだったし、美香ちゃんの手前、堂々と怖がることもできなくて……。」
早口でつむがれた言葉の意味が瞬時には理解できなくて、ジーナはぽかんと口を開けた。
王子のばつが悪そうな表情から、ようやく意味が伝わって、ジーナは弾けたように笑い出した。