「ヒッ・・・。」
思わず私は小さく悲鳴をあげる。
どこかで見た顔だ。
「す、すいません、どうしたんですか?」
ずぶ濡れの女は口を開いた。
「紅璃・・・。私よ。
佳奈よ。」
「え・・・?先輩!?」
佳奈先輩が何故こんなところに?
「ずっと付けてた。あんたと晃輝先輩を。」
「え・・・?」
「ちょっと来なさいよ!!」
佳奈先輩は、私の腕を爪を立てて掴むと、
土砂降りの雨の中へ連れ込んだ。
「あんた、私が晃輝先輩のこと好きだって知ってたよね?」
「はい・・・。」
「なのに・・・どうして?
一緒に帰ってるの?
なんでアンタが晃輝先輩のカーディガンを着てるのよお!!」
佳奈先輩は私を憎悪の目で睨み、
カーディガンを凄い力で引っ張ってきた。
「や、やめてください!」
私は、小さく抵抗した。
相手が先輩だと思うと、大それた抵抗はできなかった。
「本当だったら、私があの傘の中に入って、
あの手に肩を抱き寄せられて、
私がその温もりをもらうはずなのに・・・。」
先輩は美しい顔をグシャグシャにして泣き出した。
七海が言ってたことは本当だったんだ・・・。
急に恐くなってしまった。
私が押し黙っていると、
先輩はつかつか歩み寄ってきて、私の頬を掴みあげた。
「憎たらしい。泥棒。
あんた最低よ。くず!!」
そう言って私を罵ると、私を物凄い力で押した。
ばしゃあ!!
水溜まりに突っ込む。
「ふ・・・ふふふ・・・。」
佳奈先輩は、私の髪の毛を掴むと、
結構深い水溜りに顔を押し付けた。
苦しくて、顔をあげようとしても、
先輩の力に勝てず、動かない。