「魂喰いの出現が、死体のあった位置と仮定するなら、まさに神出鬼没だね。ここやここ…こことか…屋内外関係ないみたいだし」
キアの言葉で、打鞭の先が地図のあちこちを飛び回る。
「まるで罪悪感も、見つかる恐怖すらもない。…本当に人じゃないかもな」
「そうだねぇ。
レミーシュの配置はどうする?」
「…どこにしても同じだな。なら、こちらに都合が良く、かつレミーシュが勘繰らない辺りがいいだろう」
ゼルの指先を目で追う女従者が、打鞭を向けた先。
「ロロの中央広場かぁ」
「あぁ」
「確かに、ここなら見通しは良いし、逃走しても経路の把握は円滑だね」
「…しかも、中央なら街の外へは出にくいはずだ」
「よし、決まりだね」
キアはかがんでいた体を起こす。機転の効く女従者が、すぐ地図を丸めて片付ける。
「じゃ、準備に取り掛かるよ。すぐに部下を集める。……楽しくなってきたなぁ」
悪戯を計画した子供のようにキアは無邪気に笑う。
「レミーシュにはゼルが説得してよ。その方が多分スムーズだし。
今更、魂喰い退治じゃないなんて嘘も通じないでしょ、多分」
「…だろうな。引き受けよう」
素直なゼルの返答に、キアは満足げだ。
「よし、なら実行は明日にしよう。詳細はまた追って連絡するよ」
ゼルは立ち上がる。
そして、暗い部屋を後にした。
暗い謀を頭に持って。
不必要に大きな扉の外に、レミーシュが待っていた。
「…遅かったね…あれ?腕……」
二の腕の出血痕を気にするレミーシュに、ゼルは無表情で返した。
「心配いらん」
「…あ、うん…。そか、すぐ治るもんね」
「そういう事だ。あの頭…キアと腕試ししただけだ」
「…そう。
で、何か分かったの?」
「罠を張る。相手を確かめたい。お前の…力を借りたい」
鳩血色のゼルの瞳に瞳を覗かれ、レミーシュはすぐ紅潮した。
「…えっ…?わ、私でいいの…?」
「お前が…最も適している」
悪魔の囁きに似た、不自然に甘い言葉だった。