玄関ドアの表札には「魔王」の2文字。
「……長い冒険だった」
某アパートの2階・角部屋。
ここ207号室こそが「魔王」の自宅なのである。
「ついに、最終決戦だ!」
戦士が、207号室のインターホンのボタンを押す。
「……はーい」
すぐに、ドアの向こうから返事があった。
「た、宅急便でーす!」
魔王を油断させるために、戦士はウソの呼びかけをする。
「はーい、いま開けまーす」
部屋の中から聞こえてくる声は、なぜか女性のものだった。
「ここって、本当に魔王のアパート?」
不安になった神官が、つぶやいた。
ガチャッ
解錠する音がして、とうとう207号室のドアが開く。
「魔王、覚悟し…あーっ!」
「あーっ!」
部屋から出てきたのは、ごく普通のオバサンだった。
「え? 誰?」
アロハシャツ&短パン姿で登場したオバサンは、とても魔王には見えない。
「あのう…ここって魔王のお宅では?」
勇者が、おそるおそる尋ねた。
「そうだけど……アナタ達は?」
「あ、僕らは、そのう、勇者とか戦士ですけど」
魔王相手だというのに、なぜか敬語を使って勇者は答える。
「……勇者?」
「はい、勇者です」
「で、アタシに、いったい何の用が?」
オバサンが怪訝な顔をしてみせる。
「とぼけるな! この極悪人め!」
戦士が、剣を抜いて構えた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「だまれ!」
「アナタ達、誤解してるわよ! 確かに、アタシは魔王(43)だけど、×××ファンタジーっていうRPGのラスボスよ!」
「えっ!?」
「やっぱり誤解してる…アナタ達は、なんていうRPGの人?」
「ええと、そのう、×××クエストですけど」
勇者たち4人のあいだに、気まずい空気が流れはじめる。
「ほら、やっぱり。別のRPGでしょ?」
「……あ、それは、そのう」
もう謝るしかなかった。いちばん暴言を吐いていた戦士などは、土下座したうえで、オデコを地面にすりつけて、必死で謝った。
「……土下座までされたら、仕方ないわねー」
あきれながらも、魔王(43)は、ようやく怒りを鎮めてみせる。
「まあ、これも何かの縁かもしれないから……カルピスでも飲んでいきなさいよ。クーラーもきいてて涼しいわよ」
こうして勇者たちは、カルピスだけでなく「水ようかん」や「くだものゼリー」などを、ご馳走になりましたとさ。