玄関から出てきた男の人と私の距離が、近づいた時。
私は一瞬幻を見ているのかと思った。
「春樹?」
寒くて震えていた私の体が、違う震えに変わった。
だってもう二度と逢えないと思ってたから。
「こんばんは」
私の母親が春樹に挨拶した。
「あっ、こんばんは」
春樹も母親に挨拶する。
「いいから、家帰ってて」
私は母親にそう言った。
二人だけになった私と春樹。
「何してんの?」
私は混乱していて何を話していいのか、わからなかった。
【あっ!せっかく逢えたのに亜弥、今ドカジャン姿だ】
とっさに、そう思った私。
「違うんだよ。これは弟の上着で、亜弥がそういう仕事してるとかじゃなくて、寒いから借りただけだからね」
慌てる私。
「嘘つくなよ」
春樹が言った。
「えっ?」
昔と変わらない春樹に、私の心は落ち着きを取り戻した。
「どうしたの?なんかあった?」
「別に」
春樹の事を見ていれば、何か悩んでいる事位、すぐにわかった。
でも、何もないと言う春樹に無理に追求はしなかった。
そこから、どの位話していたのか解らないが、私と春樹はくだらない話しを繰り返していた。
言いたい事は沢山あった。
好きだという事も、伝えたかった。
でも言えない私は
「春樹の匂いがする」
そう言って微笑んだ。
「変わってないな」
そう言って春樹も微笑んだ。