ねぇ…大好きなのに。

春樹  2009-11-12投稿
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玄関から出てきた男の人と私の距離が、近づいた時。

私は一瞬幻を見ているのかと思った。

「春樹?」

寒くて震えていた私の体が、違う震えに変わった。

だってもう二度と逢えないと思ってたから。

「こんばんは」

私の母親が春樹に挨拶した。

「あっ、こんばんは」

春樹も母親に挨拶する。

「いいから、家帰ってて」

私は母親にそう言った。

二人だけになった私と春樹。

「何してんの?」

私は混乱していて何を話していいのか、わからなかった。

【あっ!せっかく逢えたのに亜弥、今ドカジャン姿だ】

とっさに、そう思った私。

「違うんだよ。これは弟の上着で、亜弥がそういう仕事してるとかじゃなくて、寒いから借りただけだからね」

慌てる私。

「嘘つくなよ」

春樹が言った。

「えっ?」

昔と変わらない春樹に、私の心は落ち着きを取り戻した。

「どうしたの?なんかあった?」

「別に」

春樹の事を見ていれば、何か悩んでいる事位、すぐにわかった。

でも、何もないと言う春樹に無理に追求はしなかった。

そこから、どの位話していたのか解らないが、私と春樹はくだらない話しを繰り返していた。

言いたい事は沢山あった。

好きだという事も、伝えたかった。

でも言えない私は

「春樹の匂いがする」

そう言って微笑んだ。

「変わってないな」

そう言って春樹も微笑んだ。




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