クライアナ二人目
おいしい仕事だと思ったよ。俺も芸人として売れて来た何よりの証拠、かな。
テレビでよくある、売れて来たタレントへの名物仕事だ。
オチの落とし穴ってのは、大体事前に通達するものらしい。
安全考慮のためだそうだ。
だろうなぁ、とは思ってたよ(笑)
このギャラで、ようやくプロポーズができるし、文句なしだ。
で、今オレはド田舎の、人なんてまるでいない山の中。
ここで気付けよ!
…って視聴者に突っ込ませるためだとさ。
見回してもカメラなんかない。
当然だよな。夜で真っ暗だし、隠しカメラらしいから、見えるはずもないよ。
先の方に、引っかけ役の女の子が立っている。
とっても可愛くて明るくて、待ち時間ですごい話が盛り上がっちゃったよ。
『落とし穴』に引っかけて、昔話をしてやったんだ。
昔、公園で遊んでた時にさ、ただ転んだだけで手を叩いて笑う知らない女の子がいて、ムカついたからさ、裏山に、一人じゃ出れないくらい深い落とし穴作って落としてやったんだ。しかもそのまま放置(笑)
そのコさ、落ちた場所が悪かったのか、口中血まみれで喚いてて…。
そんな話で手叩いて笑ってくれてたよ。
可愛い顔が破顔するのを見せたくないのか、顔までそむけちゃうくらいウケてて。
…さて、見せ場だ。
あと一歩でオレは落ちる。
引っかけ役の女の子に精一杯笑ってオレは踏み出した。
女の子が笑い返してくれる。
その口は、血で真っ赤だった。
底が抜ける。
『落とし穴』は、思ったよりも、
ずっと、
ずっと、
………フカカッタ。
終劇