必ず来る別れの時間。
春樹には、奥さんも子供もいる。
だから私は自分の気持ちを押し殺す。
「じゃぁ、亜弥はそろそろ家帰るよ」
私の強がる心と嘘の気持ち。
「うん」
平気なふりをする春樹。
【ずっとこのまま春樹の傍に居たい。また逢えなくなるなんて嫌だ。こんなに大好きなのに】
私の本当の気持ちは、私をその場から動けなくした。
「帰るんじゃないの?」
春樹が言った。
「帰るよ」
言葉より強い心。
そして、二人は少しの間沈黙していた。
「お前携帯持ってんの?」
春樹が聞いてきた。
「普通持ってるでしょ」
私は笑顔で答えた。
だってその質問は、これでお別れじゃないって事だから。
そして私と春樹は携帯番号を交換した。
「ご飯食べるんでしょ?また電話するよ」
そう言って春樹は帰ろうとした。
「うん」
安心した私は、素直に家に帰った。
家に帰っても、私の胸はドキドキして、ご飯なんて食べれなかった。
私の携帯に春樹から、着信が入った。
私は急いで通話ボタンを押す。
「掛けてくるの早っ」
私は嬉しかった。
「ご飯食べた?」
春樹の声。
「うん」
「じゃぁ、遊ぼうよ」
【春樹はいったい、どういう気持ちで私を誘ってるんだろう?】
また来る別れに、戸惑う私の心。
でも、もう決めていた。
春樹を好きな気持ちは、絶対変わらない。
強がった後に残る、むなしいだけの後悔はしたくない。
いつか別れがくるなら、その辛さは本当の自分で受け止める。
その夜、私は春樹に抱きしめられて眠った。
春樹の匂いも声も、鼓動や温もりも、全部が私を幸せにしてくれていた。