しかし朝になってみたら、王子は順調に回復中だと聞かされ、さらに耕太の部屋へ迎えに来てみたら、この通り普通に元気な様子でいたのだ。確かに喜ばしいことなのだが、美香としてはちょっと納得がいかなかった。
耕太は、なんてことない、というように、肩をすくめて答える。
「オレが倒れてたのは、腹が減りすぎて死にそうだったから。昨日ホシゾラさんに飯食わせてもらったから、もう余裕だっつーの。」
「でも、傷だらけだったじゃない。」
「それは覇王とかいうやつにやられた時の傷が治ってなかったのと、後は……。」
耕太は何か言いかけて、不意に口をつぐんだ。耕太の気まぐれはいつものことだったが、流石に美香は気になった。
「後は、何よ?」
「いや、部屋に着いてから話すよ。お前のお仲間さんたちにも一緒に聞いてもらった方がいい話だからさ。」
もっともな言葉に美香は引き下がった。耕太に言いくるめられるとなぜか悔しくなるが、美香はぐっと我慢して王子の部屋へ続く道を歩き続ける。
悔しいついでに、美香は昨日からずっと言いたかった言葉を呟いた。
「……耕太、」
「ん?」
「あの時は、犠牲になって私を“子供のセカイ”に届けてくれてありがとう。それと――おかえりなさい。」
「……。おう。」
珍しく素直な美香に、内心耕太はどぎまぎしたが、そこは男の意地でさらりと返した。しかしそれから部屋に着くまで、一度も美香の方を見ることができなかった耕太だった。
部屋の入り口である石のアーチをくぐると、楽しそうにベッドの上で揺れる金髪に気づいて、美香はベッドに走り寄った。
「王子!」
「美香ちゃん。」
王子はホシゾラと談笑していた顔を美香に向けると、いつものようににっこりと微笑んだ。
体は傷だらけのようだが、美香はその穏やかな様子にホッと息をついた。
「体は大丈夫?いろいろひどい状態だったってホシゾラさんが言ってたから……。すぐにお見舞いに来れなくてごめんなさい。」
「気にしないで。大丈夫、すぐに良くなるよ。」
美香は憂鬱な気持ちが溢れ出ないようにしながら、あの砂漠での出来事を思い返した。美香が弱かったせいで、すぐには想像の力を行使できず、王子を傷つけてしまった……。
「あの時は、ごめんなさい。」
美香は小さな声で言った。王子は笑みを深めた。