週の3日から4日は塚本はその施設へ通うようにしたが、
彼女は雨の日もお構いなく、裸足で傘を差さずにいつもの木々の所でうたっていた。
彼女にとってはうたうこと、それ自体が息をするかのようだった。
時々、施設の中で彼女を見かけることもあったが、
廊下を歩く彼女は、
口をつぐみ、うつむきかげんで、
瞬きしていることも自分では気付いていないのかと思うくらい、
その表情はまるで動かなかった。
一瞬見間違えたかと思い、すぐに彼女だと気付いて声をかけたことがあったが、
不意をつかれた無防備のままの彼女は、
敵意を示すことができず、
悲鳴に近い叫び声を上げて、走り去ってしまった。
それは見ていて、本当に痛々しい姿だった。
彼女とまともに会えるのは中庭くらいで、
それでも、彼女の好きな曲の流れている間だけだった。
曲が始まってもしばらく警戒しているのは、二ヶ月経っても変わらないことで、
アルバムの曲が終了した、と気付くと、
一目散に奥の木々の中へと身を隠した。
彼女が裸足なのは、庭の芝生の上だけかと思ったら、
施設の建物内でも同じことで、受付で来訪者の記入をしている際に、
近くを通る彼女のヒタヒタという足音を、塚本は早くから聞けるようになった。
いつも耳を澄ませて、彼女を驚かすことのないように、
そっと少し離れた所から見守った。