りら(彼女)の方も、だいぶ心を開きつつあるのかもしれない。
始め警戒するように、振り返り振り返りにらみつけるように退散していた彼女も、
最近では別れの際に軽く頭を下げるようになった。
いつも(気をつけ)をして、深々と頭を下げ一礼する塚本に真似るようになったのだ。
ごくたまに、はにかんだのか、ひきつっているのかわからない顔で会釈する時がある。
ずっと動かしていなかった筋肉の、どこを動かせばいいのかわからないのかもしれない。
塚本も、始め気付かなくて、不審に思っていたのだが、
彼女が”笑おうとしている”と気付いた時、
見送る彼女の後ろ姿を見て、涙が止まらなかった。
彼女が”変わろうとしている”。
何も無かった地に、
新しいいのちが芽生えたような、
そんな感動をした。
彼女の傷ついた心に、
少しずつ、雨の水溜まりのようなものが満ちてゆく。
「もっと、満たされてほしいな。」
塚本は、静かに閉められた扉に向かって、
そう祈った。