雨があがる。
今日はもう、汚れは洗い流し終わったとでもいうのだろうか。
びしゃびしゃと叩かれていた地面が、水溜まりが揺らぎを止める。
と。
人が、いつの間にか広場から消えている。
いるのは、レミーシュただ一人。
「…なんだ?」
「おかしい…こんなパターンなら今までの件は僕らも気付くはず。…何が始まるんだ…?」
キアはそう言いながらも、嬉々として目を見開く。
気配や予兆もなく、一人の存在が姿を見せた。
レミーシュの近くの、ひび割れたベンチだ。
「…奴か…?」
キアは立ち上がり、右手を上げた。
親指を立て、すぐに立てる指を中指に変える。
包囲の合図だ。
……何の反応もない。
「……!?」
キアが訝しんで、もう一度合図を出すが、結果は同じだ。
ゼルは辺りを見回した。
見える限り、人影はない。
だが、気配は分かる。
動かないのか。
動けないのか。
ゼルは空を見た。
一羽、黒い鴉が、空にいる。
翼を羽ばたかせず、不動のままで、空に存在している。
静止画のように。
「…時を…凍らせた…!?」
「…そんな馬鹿な」
ゼル、キアは動けるのに、だ。
「…俺達は小間使いだからか…?下界のみに作用させている『因果』を歪ませたのか…?」
「…そんなの、人間の所業じゃないよ。…やっぱり、あいつも神のパシリか何かって訳かい…?」
「…ちぃっ」
ゼルは跳躍した。広場を見下ろせるビルの屋上から。
その、何の類か分からぬ存在は、レミーシュに話しかけているようだ。
「お、おいゼル、一人はヤバイってば…!」
すぐにキアが追う。
ゼルは煉瓦を破壊して着地し、その破壊された地面に左手を突っ込む。
ずるり、と大鎌が姿を見せる矢先。
レミーシュと、その傍らの存在…おそらく、『魂喰い』…の前には、
先客が、現れていた。