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「え?ウチが新人戦出るんですか?」
私は目を丸くした。
「そうだよ〜。珍しいよねぇ?」
先輩がケータイをいじりながら答える。
あれから…
1年が過ぎた。
私は高校一年生になった。
私の通うこの高校は、就職率が極端に高い代わりに、部活があまり盛んではない。
新人戦には出たことがないような高校なのだ。
「ま、頑張ろね〜」
ゆるりとした笑顔で、先輩は言った。
「…はいッ」
私も笑って答えた。
(信に逢えたらいいな)
ふと心のどこかで、そう思う私がいた。
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新人戦当日。
試合会場である体育館では、開会式前の練習が各学校で行われていた。
何回でも見てきた、試合前のこの独特な雰囲気。
無論、私もその中で練習に参加している一人だ。
――どんっ。
(あ、ぶつかった?)
他校の誰かにぶつかってしまったようだ。
ぶつかった相手に頭を下げようと、私は振り向いた。
「…!?」
言葉を、なくした。
私が振り向くと同時に振り返ったのは。
「!…お前…!?」
「し…ん…」
信だった。
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…本当は、あの場でたくさん話したかった。
…本当は、もっと見ていたかった。
でも、私も信もすぐに何事もなかったかのように練習を再開した。
…他人行儀に頭を下げた後で。
私たちの練習が終わったあと、ふと 信とぶつかった場所に目をやると…。
信はさっきまでと同じように練習を続けていた。
「…強く…なったね」
呟いて、私は選手と観客の入り交じる方へと、姿をくらました。
信が転校すると聞いてから…
私は自分がどこかおかしくなったのだと思った。
だって それから信の事しか考えられなくなったから。
祖父が死んでも なお、信の事を考えてしまう自分がいたから。
…恋は盲目。
まさに私は、その典型となってしまったのだ。
人混みの中に紛れた私は…人知れず、涙を流していた。
私の初恋は、この瞬間に終わったのだと思う。
―― 終 ――