ビルの屋上に登るのは
人を見下したいからじゃない
無謀に飛びたいからじゃない
独りになりたいから
蒼の中で風を浴びたいから
両手を広げて霧のような雲を受けとめて
高らかに声を張り上げて唄うんだ
たとえ世界のすべてを知っても
怯えないように
敗けないように
すべてに毅然と立ち向かえるように
人にやさしくできるように
そんな想いを込めて唄うんだ
涙が空に舞ってゆく
やがてそれは光とかして
空を羨む一人の少女の手のひらの中に
愛の羽となって証を残す
それは誰かが叫んだ唄
それは誰かが流した涙
想いはいつも気づかぬところに
そっと日常の隅などに転がっている
耳を澄ますと聞こえてくる
――ああそれなのに
耳の悪い誰かは今日もまた屋上に登る
独りになりたいからじゃなく
人を見下すために
無謀にも飛ぶために。