入ったのは、銀座の高級レストラン。
「ここ、私のお気に入りの店なの…。」
すると走太は首を横に振った。
「いいです。落とし物拾ったくらいで、こんな…。」「私の気持ちです。さあ。どうぞ。」
中に入ると、スーツ姿や、菜々みたいなドレスを着た人たちが優雅に食事をしている。
席に着くと、菜々は『いつもの』と店員に言って走太を見つめた。
「あの…走太さんって、どういうお仕事されているんですか。」
「あ…あの…」
走太は悩んだ。フリーターですって言うと間違いなく嫌われる。
絶対に嫌われる。
あまりにも答えないので、「すみません。失礼な事聞いてしまいました。」
菜々は頭を下げた。走太は、そんな姿を見ていられなくなり、
「フ…フリーター…です。」
菜々は少し表情を曇らせた。
「フリーターなんです。…オレ。」
走太と菜々。2人の周りの空気が一瞬凍った気がした。でも、
「そうですか。」
菜々は笑顔で返してくれた。
「このキーホルダーは、病に苦しんでいた友達が、私にくれたものなの。もうその子…死ぬって分かっていたらしいのか分からないけど、『これ、私からのプレゼント。私の分まで生きてね。』って言ってくれたの。」
菜々の目から、涙が一筋、ほおを伝った。