「ごめんなさいね…。」
「いえ…。」
「だから私、このキーホルダーは毎日バッグに付けていたんですけど、何かの拍子で落としちゃったみたいです。」
「そうですか…。」
何でこんな人かキーホルダー１つにあんなに探し回っている理由が分かった。
そして…
帰り道。
「では、私これで。」
菜々の後ろ姿を、ただ見つめていた。
でも、それより走太は、気持ちを伝えたかった。
「菜々さん！」
菜々はゆっくり振り返る。走太は走って菜々に近づいた。
「菜々さん…。」
「はい。」
「オレ、菜々さんのこと、守ってやりたいです。オレちゃんと働いて、菜々さんのこと…守ってやりたい。」
菜々は複雑そうな顔を浮かべる。
「オレと、付き合って下さい。」
菜々は、少し笑って、
「私で…良ければ…」
そう言って、軽くお辞儀をした。
走太も軽くお辞儀をした。菜々はタクシーに乗って、帰っていった。
走太はしばらく、菜々の乗ったタクシーを見つめていた。
ふと視線を下に動かすと、道に紙が１枚落ちていた。「ん？」
広げてみると、
『今度の日曜日、またこの場所でお会いしたいです。』
と書いてあった。
走太は１人で叫んだ。
「よっしゃー！」
恋に落ちた瞬間だった。
一方、タクシーに乗った菜々は、さっきの笑顔が嘘のように消えていた。
お見合いの相手は、いつもお金持ち。
菜々は、それが嫌だった。普通の人と、平凡な暮らしをしてみたかった。
走太さんは優しい人。でも失礼ながらお母様が喜ぶようなお金持ちではない。
結ばれてはいけない恋が、スタートした。
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