レミーシュは空虚な造花を穢た街にばらまきながら、
ふと、厚く雲の垂れ込めた空を見上げた。
鳥が……空にいる。
……まるで三流画家の絵画のように、動きを止めて。
その時。
「お姉さん、花をくれないか」
ロロでは聞く事のない、違和感のある台詞。
花を、求める人など。
気付けば、小汚いベンチに、フードを目深に被った人。
…いや……
人のカタチをした者。
直感だろうか。レミーシュはそう思った。
「…赤い薔薇か。派手だ。…白がいい」
「ご、ごめん、白はないんだ…」
そう言って、レミーシュは自らの脳髄に、痺れに似た旋律を走らせた。
「白い……薔薇……?」
「そうだよ。白い薔薇だ」
フードの闇の中で、白い歯がこぼれる。
「…ま、まさか……」
「いいかレミ。今は理解しなくていいから、言葉を『覚えて』くれ。
今、刻と空間を歪めて話している。
そう、人では不可能な業だ。
だが、今実際に、オレはここにいる。
レミに頼みがある。
オレはお前に頼りっぱなしで、申し訳ないけどな。
今、オレは必要としているモノがある。
それを、お前が連れて来た赤い眼の男が持っている。
そいつは、俺の肉体を乗っ取った。
俺は、肉体と、そこに入っているモノが欲しい。
騙されるな。オレをこんな風にしたのは奴だ。
どんな手を使っても、オレは奴が欲しい。無傷でな。
そこで、お前の出番だ。
奴の隙を作ってほしい。
出来れば月の出ている時にだ。
…たくさん話しすぎたな。大丈夫か…?」
「…う、うん…」
「そうか、良かった」
そう笑う彼の目が、レミーシュから離れた。
思わず視線の先を追う。
白い翼を持つ、人間離れした美しさの女が、二人の前に舞い降りる。
「おいでなすったか」
「…貴様…私を見ても驚かないか」
「まーね。あんたがレミのバックにいる事くらい分かってたし」
白い翼の者は地面に降り立ち、軽く辺りを見回した。
「…ほぅ。貴様、神に仇なすつもりか…」