戸倉
「それはどうかなぁ。
だって、大西麗子よりも魅力的な女なんて、めったにいないよ。
それにさぁ、部長は簡単にその辺の女に引っ掛かるような、ふわふわした男には見えないしさぁ」
山口
「あたし、もうひとつ気になる事があるのよねぇ。
部長の態度がおかしくなったのはさぁ、あの夜からなのよね」
戸倉
「あの夜って?」
山口
「川島さんを車の助手席に乗せて、どこかへ出掛けるの見たっていったでしょ。
あの次の日から様子が変なのよね。
部長の早帰りが始まったのは、あの翌日からなのよ。
それにさぁ、今週いっぱい川島さんは休暇を取ってるのよね。
もしかしたら、毎晩川島さんの所に通ってるんじゃないかな」
戸倉
「あのねぇ、冗談を言うんだったら、もっとリアリティーのある冗談を言ってよ。
いくらなんでも、部長が川島さんにメロメロにされるわけないじゃない」
朝倉
「そんな事は物理的にも有り得ないわよ。
言っちゃ悪いけど、川島さんはあたし達女性から見たって、あまりにも悲惨な状態よ。
そりゃ、男の中には変わった趣味の人もいるわよ。
太ってる人が好きだったり、極端に歳上好みだったり。
でも、川島さんはないわよ。
趣味の域を越えてるもの」
山口
「そうよねぇ、常識で考えたって不自然だもんね。
でもさぁ、部長のあの様子は、やっぱり女だと思うのよねぇ。
ねぇねぇ、もしもよ、もし女だとしたら、いったいどんな女だと思う?
あの大西麗子を放っぽりっぱなしにして、部長が通いつめる女って?」
戸倉
「ミス・インターナショナル日本代表とか」
山口
「テレビタレントとか」
朝倉
「あたしはそんなんじゃないと思うな。
もし、あの部長を虜にするような女だったら、きっとそれは『魔性の女』よ」
大西麗子は朝からイラだっていた。
先週は石崎武志と一度も会う事が出来なかった。
それどころか、ここ十日ばかり、まともに連絡もつかない。
土曜日の朝にやっと携帯が繋がったと思ったら、これから出張に行く、と言われてしまった。
帰りは日曜日の夜遅くだと言う。
彼が普通よりも忙しい人間だという事は承知していた。
それは自分も同じ事で、だから、二人が思うように会えなくても、それはそれで仕方のない事だった。
だが、それにしても納得がいかなかった。