「このメガネをかけると、人が自分をどう見ているのかがわかる。自分の姿を見た人の額に、数字が浮かんで見えるのだ。100が最高で50が平均。数字が大きい程いい。要するに、人の自分に対する印象の良し悪しが、数字として見ることができるのだ」
博士の説明を聞いて、男はメガネを受け取った。
その男は、自分の顔に自信を持っていた。
だからこそ、人の、自分に対する印象が気になっていたのだ。
それで男は、博士にそのようなメガネの発明を頼んだというわけ。
早速男は、人通りの多い場所に出掛けた。
通り過ぎる人々は、男の男らしい顔に見とれている様子だった。
男は例のメガネを取り出し、自信と期待を胸に、それをかけた。
確かに、こちらを見る人々の額に、小さく数字が浮かんで見える。
しかしそのどれもが、平均値以下だった。
つまり、20とか30とか。低い数字ばかり。
80はあるだろうと思っていただけに、男はプライドをひどく傷つけられた。
みんなが自分に抱く印象は、こんなにも悪いのか、と強いショックを受けた。
男はしばらくの間、いろいろな人の額を見ていたが、やがてそれをやめた。
メガネをしまって、自宅へ足を向けた。
帰る途中、男は考えた。
このメガネが狂っているのかもしれない…。
いや、でも、あの博士は腕も確かで、信頼できる人だ…。
家に着いた男は、真っ先に洗面所に入った。
鏡の前に立ち、呟く。
「やっぱりかっこいいじゃないか。いい男だよ、俺は」
それから男は、思いついたようにメガネを取り出して、かけた。
鏡に映る男の額に浮かぶ数字は……。
15。
その時男は初めて気が付いた。
メガネは狂ってなんかいない。
みんなの額の数字がすべて低かったのも、無理はない。
鏡に映る男は、どうしようもなくかっこ悪かった。
何より、メガネがダサい。
そのセンスは、最悪としか言いようがなかったのだ。