「…素直に感謝しておこう」
ゼルは立ち上がり、大鎌を担ぎあげた。
「ここで待っていろ」
ゼルの言葉に、レミーシュは目も向けず、返答もしなかった。
ゼルとキア。
二人の小間使いが疾走し、いびつな闘技場と化した中央広場へ舞い戻る。
フードの者…もはや『魂喰い』でいいだろう。
魂喰いは光を組み敷き、それを眼下に深い闇の中から笑みを見せていた。
「…は、離せ下郎がっ…!」
「やべぇ、めちゃいい匂いすんじゃんお前…光の、甘くて白い…たまんない匂いだ…」
魂喰いの口からは、獣のように唾液がしたたり、ふくよかなレミエルの胸を濡らす。
「ちっ、ここで彼女がやられるとまずいよ。光のパシリを失ったら…また神々による戦火が灯るかも…」
キアの言葉の終わりを待たずして、ゼルは大鎌を頭上で水平に振り回して遠心力をつける。
をおおぉぉ…と、罪人が呻くような音を鎌が作り出す。
それの音に、魂喰いがゼルを視界に入れた瞬間。
キィィィ……ッッンッ。
肉を断つのとは異なる音。
鎌は水平に振られ、魂喰いの胸部を真横に切断する。
「…魂を切る音だ。貴様の魂を両断した。
…冥土へ墜ちろ」
回路を失った胸部より下半身が、力なくレミエルにのしかかり、刹那の後に灰塵と化す。
だが。
「…ほぅ。まじウケる手品だなぁ」
上半身は、レミエルを組み敷いたまま喋り続ける。
「……!!?」
常に冷静なゼルに白波がたった。
「あーあ…体こんなんじゃ何もできないし。
んじゃ、コイツをいただくよ。
…ついでに、パシリの魂もなァ」
ゼルが第二撃を加える前に、魂喰いはレミエルの柔らかな胸に顔をうずめた。
顔が、乳房に深く沈んでいく。
まるで皮膚を突き抜け、その中に入っていくように。
「…ぅぁあああああああああああああああああああ」
声というより、音に近い、光のパシリの悲鳴。
血も何も、破壊に繋がるものは何もない。
だが、魂の燭が揺らぐのを感じた。
神の小間使いの命を脅かす存在に、ゼルは戦慄した。