魔女の食卓 28

矢口 沙緒  2009-11-22投稿
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そのひとつひとつに対して、丹念な質問を繰り返した。
石崎武志の記憶力と観察力、そして食材の知識は川島美千子を感心させた。
「これで全部ね。
どうもありがとう。
すごく参考になったわ。
それじゃあ…
来週にしようかしら。
来週の藤本専務の都合のいい日に、ここに専務を招待してください」
「えっ?専務をここへ」
「だって、このままじゃ困るでしょ、専務との関係」
「そうだなぁ、かなり怒ってたからなぁ」
「でしょ。
だからその関係を修復してあげるわ」
「修復って、いったいどうやって?」
「簡単よ。
あなたが正しい事を、証明すればいいんでしょ。
任せておいて。
料理は魔術だってところを、見せてあげるわ」



車は夜道を走り続けていた。
石崎武志にとってはすっかり通い慣れた道だったが、今日は少し勝手が違っていた。
助手席には川島美千子ではなく、イライラした藤本専務を乗せていた。
でっぷりと太り大柄で、金縁の眼鏡をかけている。
白髪混じりの髪を撫で付け、専務という役職にふさわしい貫禄のある男だった。
だが、この前の事以来すっかり機嫌を悪くして、今日もやっと頼み込んで来てもらったのだ。
「君!まだなのかね、そこは!」
二時間近く車に乗せられている藤本は、声を荒立てた。
「あの、もうすぐです。
あっ、その道を入った所ですから」
石崎武志はハンドルを大きく左に切って、別れ道に入った。
道はすぐに広場にでて、川島美千子の家が見えた。
彼女はこの日休暇を一日だけ取って、朝から準備をしているはずだった。
「ここか、君の言っていたレストランというのは?」
「はい、正確には元レストランです。
今はもう営業していません。
とにかく中へ」
石崎武志は車を降り、藤本を即した。
入り口にはすでにエプロン姿の川島美千子が立っていて、二人を出迎えてくれた。
中に入ると、いつも石崎武志が座るテーブルに二人分のディナーセットが用意されていた。
今日はシャーベットの姿は見えない。
「どうぞ」
川島美千子が言うと、藤本は仏頂面のままドスンと腰を下ろした。
よほど腹を立てているのか、彼女に挨拶すらしない。
「じゃ君、始めてくれるかな」
石崎武志が言うと、
「かしこまりました」
彼女はそう答えて厨房に消えた。
藤本は相も変わらず不機嫌そうな顔で、店内に目を走らせていた。

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