結衣子は、自分の家族でありながら、房子達の神経を、疑っていた。
病と決めつけ、その奇異な行為を取り上げようとはしなかった。 例えば、結衣子が、来客用の二重のトイレットペーパーを仕事場のトイレに据え付けておくとする。
母親の愚かな振る舞いは、真夜中にトイレに入って、その表面の紙を体に巻き付け、カシャカシャ音を立てて結衣子のそばを通って、自室に持ち込み、平然と、自分の買い物のような顔をするといった類いの、まともに付き合えたものではないことばかりであった。 とにかく、この親子は、結衣子のものをくすねることに快感すら覚えてようで、その先勝品をみせあっては、声を立てて笑った。
手柄であった。
聡明で、カウンセリング協会にも属している結衣子には、クライアントであれば、かなり深刻な事態の親子を野放しにしていることに、少々の後ろめたいものがあったが、それを持ち掛けたところで改める相手でないことも理解していた。
それならば、せいぜい、家の中でガス抜きをさせて、一歩外には迷惑をかけさせないでおこうと考えたのである。
二人が、対面をことのほか気にする性格を裏手にとった苦肉の策でもあった。