戸倉
「愛っていうのはね、特定の異性を本能で求める事よ。
ただそれだけの事で、ほかの要素が入り込むスキはないの。
原始的な感情だけど、それだけに純粋って言えるわよね」
朝倉
「そうね。
例えば
『やさしいから好き』
とか
『誠実だから好き』
とか、よく言うじゃない。
でもさぁ
『何々だから好き』
っていうふうに、自分を納得させようとしているような理由を付けているうちは、きっと愛じゃないのよ」
山口
「じゃ、結婚は?」
戸倉
「結婚は、計算と契約よ。
専属愛人契約ってところかしら。
結婚式っていうのはさぁ
『私はこの男の専属愛人になります』
って、友達や家族に発表する場なのよ。
恥ずかしいったら、ありゃしない」
朝倉
「でもさぁ、確かに結婚って、そういう所あるわよねぇ。
男はお金を稼いできて女の面倒をみる。
その代わりに、女は男の身の回りの世話をして、男の好きな時に抱かれる。
あきらかに取り引きって言えるわよね。
もしかしたらさ、結婚と愛とは、対極にあるのかもしれないわね」
山口
「ちょっと待ってよ。
二人の話を聞いてると、結婚ってすごく不純に聞こえるじゃない」
戸倉
「実際、不純なんだから、しかたないじゃない。
あんただって結婚するってなったら、相手の年収やなんかが気になるでしょ。
それ自体もう不純なのよ。
計算なのよ。
だけどさぁ、誰でも自分の事を、打算的な人間とは思いたくないでしょ。
だから
『愛』
っていうチョコレートで
『結婚』
をコーティングしちゃうのよ」
朝倉
「そうよね、むしろ不倫のほうが純粋って言えるかもしれないわね。
だって、危険をおかしてまで、お互いを求めてあうんだもん。
しかもさぁ、見返りなんかないしね。
結婚みたいに、変な束縛もないけど、そのぶん安心感もないわよね。
なんか、どこか不安でさ。
だから余計に燃えちゃうのかもしれないけど、いつも」
山口
「あの…
いつもって…?」
戸倉
「あんた、不倫してるの?」
朝倉
「あっ!
もうこんな時間だ。
そろそろ帰ろうかな」
戸倉
「こらこら!
ごまかして逃げようったって、そうはいかないわよ。
どこの誰だか、白状しなさい」
朝倉
「いいじゃない、誰だって」