僕は万札を手に取った。
「こんなもの…」
「返して!」
君は必死に取り返そうとした。
「うるせぇ! こんな汚れたものなんか…」
人生で初めてお金を破った。
しかし気分は全く晴れない。
「なんてことすんの!」
君のその態度にまた苛立った僕は、君に細切れの札を投げつけた。
「そんなに大事なら返してやるよ」
君は怯え、そして悲しそうだった。
「……ったの」
君は下を向いたまま呟いた。
「ああ? 聞こえねぇよ」
「全部嘘だったの! 援交なんて一度もやったことない!」
「な…嘘つくなよ! あんだけ色々言ってたじゃねぇかよ!」
「嫉妬してほしかったの!」
「だからってそんな嘘つかねぇだろ! 騙されねぇぞ!」
「本当に全部嘘だったの! 前に言ったでしょ!? 私虚言癖があるの!」
「きょ…なんだって?」
僕は一瞬にして怒りを忘れてしまった。
虚言癖――。
確かに君は以前そんなことを言っていた。
気を引こうとして大げさに言ったり嘘をつくことがあると。
「…今回もその虚言てやつって言いたいのか?」
「…うん」
「じゃあこの金はなんなんだ?」
「たまたまおばあちゃんに貰ったの…」
「信じられると思うか? 援交してきたってずっと聞かされてたんだぜ?」
君は暫く黙っていたが、うつむきながら、
「証拠になるかわからないけど…。最初にしたとき私凄く痛がってたでしょ?」
「…ああ」
「私あのときが初めてだったの」
「…は?」
「多分暗くてわかんなかったんだろうけど、血も出てたんだよ…?」
君を見た。うつむいているが、嘘をついてるようには見えなかった。
「でもだって、もうかなり慣れてるって…」
「だからそれも全部嘘なの。強がってたの…」
消え入りそうな声で言った。
僕は君を信じようと決めた。
決めたら涙が出てきた。
どうしょうもなく溢れてきた。
「どうしたの…?」
君は心配そうに聞いてきた。
僕は首を振ることしか出来なかった。
嬉しかったのだ。君が援交をしていなくて本当に嬉しかったのだ。
体の中のドロドロが消えていく。
君を見た。
目が合った。
君の瞳は涙で濡れていてとても綺麗だった。
二人ともあることに気付いた。
「お金どうしよう…」