ねぇ、私に言葉を頂戴?―中編― 孤独の花

紅乃  2006-08-11投稿
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「あ!私今日日直だった!すっかり忘れてた…」
花瓶の水をかえて、教壇に置く。しばらくして授業がはじまった。授業も。休憩時間も。放課後も。みんな私を無視する。もちろん給食も、私のものはない。
「なに…これ…イジメ?」しゃべりつづけてないと、泣いてしまいそうで。ただひたすら思い付くだけ知ってる人の名前を、お経のようにつぶやきながら、一人で通学路を通る。とぼとぼと…気付いたら、涙が零れていた。それでもそのまま進んでいくと、十字路にさしかかる。トラックにひかれそうになったところの地面だけ、ほかの場所より黒くなって見えて。それを見ると、余計に悲しくて。立ち止まって、涙をふいて、家まで走る。やっとのおもいでたどりついた家に、逃げ込むように入る。
いつもはおそいお父さんが、帰ってきてる。ソファーに座って泣いてた。お兄ちゃんも。お母さんも。みんな泣いてた。泣きたいのはこっちなのに。自分の部屋に駆け込んで、扉の鍵をしめる。ランドセルを置いて、ベッドに倒れこんだ。またたくまにベッドは涙でぬれていく。ねえ、なんでみんな、無視するの?ただひたすら泣いた。けどやがて涙はかれる。泣きたいのに…顔をあげて時計をみる。深夜2時。おかしいな?普段ならもう寝てるのに。そしてふと思った。
どうして昨日の夜からなにも食べてないのにお腹がすかないんだろう?
どうしてさっき通学路を全速力で走ったのに息が切れなかったんだろう?
どうして…眠くならないんだろう?
ま、いいや。だって誰も私のことなんて気にしてないんだもの。次の日も美保は学校へ行く。次の日も、次の日も。やがて、美保は小学校を卒業した。もちろん卒業式に美保の席はない。
2年たったけど、私はずっと五年生のまま。
2年も何も食べていないけど、お腹はすかない。
2年も寝てないけど、眠くはならない。
2年間、誰も私に話しかけてくれない。
あの時、私の時間は止まってしまった。
2年もそうだったからから、もうそれも当たり前。きっとこの先もそうなんだろう。
でも、当たり前と思えても、やっぱり寂しくて。
当たり前と思えても、やっぱり悲しくて。
私の心にあるものは、あの時からただひとつ。










ねぇ、私に言葉を頂戴?










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