「君、誰?」
僕は目の前の風変わりな少年に尋ねた。
「イーディン・ロー。ちょっと用があってね」
「用?僕に?」
「牧場主に」
「なるほど…町でサーカスをやる予定だが、ライオンのせいで泊まる宿が無くて困ってるのか」
タナーおじさんは相手の用件をまとめた。
「そうです。ですからどうか…敷地の隅っこでも構いません。しばらくテントを張らして下さい!」
サーカスの団長は頭を下げて言ったが、タナーおじさんは迷惑そうな顔をしただけだった。
話合いは長引きそうだった。
家の外には、サーカスの一団が待機していた。団員はほとんどが大人だったが、夫婦もいるのか、子供の姿がちらほら見えた。
けれど、同年齢の子供はイーディン・ローしかいなかった。
「いきなり押しかけて、無理言っているからね…」
隣でイーディン・ローが申し訳なさそうにしていた。
「大丈夫だよ。タナーおじさんは、根はいい人だから…」
根拠は無かった。
下働きの僕には、その場だけの慰めしか出来なかった。