美保が事故にあってから四年。橘理央は、中学二年生になっていた。今、理央はクラスメイトに無理やり誘われ、怪談話を聞いていた。退屈だった理央だが、そのなかに、理央の興味をひく話が一つあった。クラスメイトの一人が、
「幽霊ってね、人やモノの魂が見えるから、私達が見えるんだけど、私達は魂なんか見えないでしょう?だから私達には、幽霊が見えないんだって。でね、幽霊っていうのは死んだ時の記憶だけぬけてるから、自分が死んだことに気付かずに、そのままの生活を続けるの。そして、やがてまわりの態度に気付いて死を知るの…。」
『…』
みんなが真剣に聞いているを確認して語り手は続ける。
「幽霊が例えば扉をあけると、幽霊が触るのはモノの魂だから、私達にはなにも動いてないように見えるわけ。だからさ、幽霊がなにをしても私達にはわからないんだよね。それを幽霊は自分が死んでるってわかっていても無視されてるって思うんだ。そして年月を重ねるごとに、幽霊の孤独は増していくの。それにね、幽霊はお腹はすかないし眠らないし年をとらないしだから永遠に孤独を味わうんだ。だからね、本当に怖いのは死ぬことなんかじゃない。死んだあとのことなんだ。」教室が静まりかえる。
話はまだ続いていたが、理央は教室をでた。小学校のときとおなじ通学路。あの十字路が見える。視界の端にうつる地面の黒いしみ。(ねぇ…美保ちゃん…やっぱり親友と呼べるような人はあなただけ。ねぇ…あなたも孤独に苦しんでるの?)十字路にさしかかる。
キキーッ!
あれ?私…美保ちゃん?美保ちゃんが見える。やっとあえた…。死んだというのにうれしくてうれしくて。ふと体操座りをしていた美保ちゃんが顔をあげる。
理央だよ。美保ちゃん。ごめんね。ずっと独りにして。
にこっと笑って美保ちゃんが抱きついてくる。四年前と同じ姿で。
ねぇ…私に言葉を頂戴?
ずっと会いたかったの。やっぱり親友はあなただけよ…!
ねぇ…私に言葉を頂戴?
大好きだよ。美保ちゃん。
ねぇ、私に言葉を頂戴?
美保…ちゃん?
「孤独が最高潮に達した霊はね、悪霊になってしまうの。」
―END