魔女の食卓 39

矢口 沙緒  2009-11-24投稿
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戸倉
「ダメよ!
だって、あたしの相手と同じだったら、困るもん」
山口
「…あんた達って、いったい…?」
朝倉
「大丈夫よ。
あんたとカブったりする事はないわよ。
会社とは全然関係ない人だから」
戸倉
「妻子持ち?」
朝倉
「奥さんが一頭と子供が二匹だってさ。
あたしさぁ、その人がいないと、生きていけないのよね」
山口
「そんなに、思い詰めてんの?」
朝倉
「違うわよ。
あたしってさぁ、ひどい肩コリなのよ、子供の頃から。
ずっと、肩コリで悩んでたのよ。
ある日ね、その人が、
『肩、揉んでやろうか。
俺、うまいんだぜ』
って言ったから、
『じゃ、やってもらおうかしら』
って言ったら、本当にうまいのよ。
スーっと楽になって。
その時にさ。
ああ、あたしはこの人なしでは、生きていけないわ、って思って」
山口
「それって、愛なの?」
朝倉
「愛かどうかは、知らないわよ。
でもさ、あの人が必要なのよ。
あの人がいなくなると、困っちゃうのよ。
肩張っちゃうもん。
もし、あの時あの人が肩を揉んでなかったら、もうとっくに別れてたかもしれないわね。
たいして魅力のある人じゃないし。
でも、今はもう別れられない。
愛とか何とかじゃなく、あたしには必要性があるのよ、あの人が。
愛なんて気持ちは、時間が経てば薄れちゃうけど、肩コリは一生治らないもん」
戸倉
「愛よりも堅い絆って訳ね」
朝倉
「世の中にはさ、愛よりも堅い絆ってあるのよ」
山口
「でもさぁ、それってあんたが一方的に必要性を感じてるんでしょ。
もしもよ、もしその絆が切れたら?」
朝倉
「考えたくないけど、もし、あの人があたしの前からドロンパしちゃったら、死んじゃうかもしれない、あたし」
戸倉
「肩コリで?」
朝倉
「代わりがいないほどうまいのよ。
あの人のマッサージは。
マッサージ依存症かしら、あたし」
山口
「ねぇ、石崎部長と川島さんなんだけど。
あの二人も、どちらかがどちらかを必要としているのかしら。
あんたと不倫相手みたいに。
何かの依存症かなぁ?」
朝倉
「さぁ、どうかしら。
でも、もしそうだとしたら、やっかいだよ、あたしの経験からすると。
変に離れられないもん。
…そうだ!
そんな事より、あんたも不倫してるんでしょ!」
戸倉
「あっ!
もうこんな時間だ。
そろそろ帰ろうかな」



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