朝倉
「あんただけは、絶対逃がさない!」
山口
「ねぇ、あたしの愛の悩み相談室は、どうなっちゃったの?」
朝倉
「また後日ね。
今はこの人の不倫相手を問い詰めるほうが急務なの。
さっ、白状しなさい!
やっぱり妻子持ちなの?」
戸倉
「分かったわよ。
そうよ、妻子持ちよ。
しかも子供は四人だってさ。
子供の数からいったら、あたしの勝ちね。
えっへん!」
朝倉
「うー、よく分からないけど、なんだか悔しい〜」
山口
「ねぇ、何かもっと違う事で自慢しようよ」
日はすでに落ちていた。
地下駐車場の出口近くに、一台の紺の大衆車が止まっていた。
大西麗子が借りたレンタカーだ。
自分の車では目立ち過ぎるのでレンタカーを借り、その中で彼女は石崎武志の車が出てくるのを待っていた。
興信所に頼もうかとも思ったが、それ自体が恥のような気がして、できなかった。
浮気の調査を依頼するという事は、
『浮気をされる可能性のある女』
という事を自分自身で認めているようで、それは彼女のプライドが承諾しなかった。
あえて黒系の服装をして、彼女はじっと待ち続けた。
この行為自体、彼女には我慢ならないものがあった。
常にどんな女よりも優位に立ってきた彼女が、他の女の影に脅える、惨めな女に成り下がった気がする。
だが、だからこそ許せなかった。
このまま、うやむやに引き下がる事はできない。
自分が、今まで通りの自分であるためには、その相手と正面から向き合い、戦いを挑まなくてはならない。
毅然とした態度で。
そして、この戦いに勝つ事が彼女の絶対条件だ。
やがて見慣れた車が出てきた。
運転しているのは、間違いなく石崎武志だった。
乗っているのは彼一人だけだ。
大西麗子はゆっくりと車を発進させた。
尾行は彼女には初めての経験なので、どのくらい間隔を開けていいのか分からなかった。
だが、いくらなんでも、すぐ後ろはまずいだろう。
とりあえず、二台の車を間に挟む事にした。
石崎武志の車はモスグリーンの外車で、あまり見掛ける車ではなかったので、そのてん見失う可能性は低かった。
地下駐車場を出て五分もしないうちに、石崎武志の車が左のウインカーを点滅させ止まった。
大西麗子は突然の彼の行動に戸惑った。