走太の手を掴んだ香奈。
「離せ!何だよ!」
「私は何でアンタがそう焦っているか知ってる。」
「……。」
「ヤバいんじゃな〜い?総理が言ってたじゃんさ〜。来年4月1日までに、何らかの職に就いていないと、強制労働〜。」
「だから今ハローワークに…。」
焦る走太とは反対に、香奈は冷静だ。
「バカ。じゃあ、何でアタシがついてきたと思う?」「それは…」
「いい方法があんの。」
そういって香奈は走太を狭い路地に連れ出した。
「何だよ。まさかオレを、ここで働かせてくれるのか?」
「違う。実は私、総理の娘なの。」
「…マジで?」
「だから、アンタの事、助けてあげる。」
走太の目が光る。
「まぁ、100パーセントじゃないけど…交渉してみる。」
「分かった。ありがとう。」
香奈は、笑顔で去っていった…。
「驚いた…」
走太は、助かるかもしれない。
菜々の側に、ずっといてやれる。
翌日。
菜々は、いつものように家政婦に身だしなみを整えてもらう。
「あの…」
「なんですか?」
「結ばれてはいけない恋って…ありませんよね。」
「えっ…どうしてこんなことを…」
家政婦は慌てる。
「私、実は好きな人がいるんです。」
「で、でも、お見合いが…。」
「お母様には言わないでください。」
菜々は、部屋を出て、朝食を食べた。
家政婦はその光景を複雑な表情で見ていた。
テレビではニュースが流れていた。
総理の、失業者消滅法について。
菜々の持っていた、ナイフとフォークが落ちた。
「嘘でしょ…?」
信じられない。
『フリーターなんです。オレ。』
嫌な予感しかしない。
『菜々さんのこと…守ってやりたいです。』