すでに石崎武志の車を見失ってから、三十分以上が経過している。
彼女は焦りだした。
こんな想いは二度としたくない。
今夜、決着をつけなければ。
しばらく道を戻った彼女は、それを見つけた。
車が一台通るのがやっとという、細い別れ道だった。
彼女は迷う事なく、その道を入った。
道はすぐに終わり、木に囲まれた広場に出た。
中央に建物が建っていて、中の電気がついている。
彼女はホテルを連想していたが、それはもっと小さい、レストランのような建物だった。
その前に、石崎武志の車が止まっている。
彼はここで女と過ごしている。
自分の車を適当な所に止め、建物に向かった。
もう彼女に迷いはなかった。
一気に建物の入り口まで向かった。
レストランのように見えたが、営業している気配はなかった。
黒い大きなドアは、堅く閉ざされている。
彼女はインターホーンを鳴らした。
ピン・ポンと軽やかな音が、ドアの奥で響く。
一度目は応答がなかった。
二度目に鳴らすと、
「どちら様ですか?」と不審そうな女の声がした。
ドアを開けようとする気配はまったくない。
「大西麗子といいます。
ここに武志さんがいるでしょ。
彼に取り次いでください」
それに対する返事はなかったが、しばらくするとガチャっと鍵の開く音がして、ドアがゆっくりと開いた。
石崎武志が立っていた。
「麗子か…
とにかく中に入ってくれ。
いずれ君とも、話し合わなくてはいけないと思っていた」
「ありふれた言い訳は聞きたくないわ。
あなたの気持ちが聞きたいの」
「うん、分かった」
彼はそう言うと、ドアを大きく開けて、彼女を招き入れた。
大西麗子が彼を尾行してきたという事は、容易に想像がついた。
だが石崎武志はそれを責めようとはしなかったし、また責める資格がない事も知っていた。
大西麗子は中に入ると部屋を見渡した。
テーブル席が四席しかないが、そこはやはりレストランの店内だった。
しかし、中には石崎武志一人しかいない。
椅子の上で丸くなって寝ていたシャーベットは、彼女に気付くと起き上がり、そのたっぷりとした白毛をなびかせながら、跳ねるように厨房へと消えていった。
そして、それと入れ違いに、白いエプロン姿の女性が出てきた。
その女性は大西麗子を見ると、無言のまま軽く頭を下げた。