子供のセカイ。103

アンヌ  2009-11-25投稿
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ホシゾラは、“生け贄の祭壇”の出口の前に立っていた。
入り口とは、ジーナが最初に美香と王子を抱えて入ってきた、前の領域とつながる場所のことであり、出口はラディスパークへ続く次の領域へとつながっている。
ホシゾラの前には、以前と同じ衣服に身を包み、すっかり旅装を整えた美香、耕太、王子、ジーナの四人が立っていた。
「体はもう本当に大丈夫ね?」
母親のように聞いてくるホシゾラに、王子は苦笑して答えた。
「ホシゾラさん、それ、もう三回目ですよ。僕は大丈夫です。今まで、本当にお世話になりました。」
深々と頭を下げた王子の金髪を優しくとかした後、ホシゾラは美香へと向いた。
「美香。」
「ホシゾラさん……。」
美香はなんだか胸がいっぱいになってしまって、気づいたらホシゾラに抱きついていた。後ろから、「げっ!あの美香が!?」と空気の読めない奴の叫ぶ声がしたが、無視した。ホシゾラは優しく美香の背中をぽんぽん、と叩いた後、美香の頬を包み込むようにしてその瞳をのぞきこんだ。
「あなたは強い子よ。誰よりも私が、そのことを知っているわ。」
ホシゾラの優しい言葉は、美香の心を溶かしていった。ホシゾラはあの時聞いていたのだろう。王子が大怪我をして、それを自分のせいだと泣いて苦しんでいた美香の声を。自分の弱さと向き合った瞬間、あまりにも頼りなく崩れていったあの時の美香の心を、今、ホシゾラは救い上げてくれた。
伝わればいい、と強く願いながら、美香はホシゾラに泣きそうな顔で微笑んで言った。
「ありがとう。本当にありがとう。私、ホシゾラさんのこと忘れないわ。絶対に。」
「私もよ。離れていても、あなたたちのことをいつも遠くから見守っているから。」
二人が体を離し、美香が耕太の頭を殴ってちょっと場の空気が和んだ後、ジーナは珍しく眉をヘの字に曲げながらホシゾラに声をかけた。
「本当に一緒に来ないんですか?あなたがいれば心強いのに……。」
「いいえ、私が行っても足手まといになるだけだわ。もう若くはないし、あなたたちのように強い意志も持ってないもの。」
元気でね、それから、無茶をしないでね。あなたは自分の限界を見極められないところがあるから。そう笑って差し出されたホシゾラの手を、ジーナは固く握り締めた。本当にお世話になりました。ジーナの低い声には心がこもっていた。

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