「耕太。」
ホシゾラは悪戯っぽく笑うと、耕太を手招いた。
耕太はぎくっとしたが、ニヤニヤする美香に肩を押されて、仕方なく前に出る。美香としては、耕太がどんな行動を取るのか見ものだった。小学校のお別れパーティーでも、いつもわざとひょうきんに振る舞ってみんなを笑わせていた耕太だ。彼が湿っぽいことは苦手だということは十分わかっていた。
ホシゾラは王子の時と同じように、耕太の髪を優しく撫でた。耕太は気恥ずかしそうに肩を縮めていて、思わず美香は吹き出してしまった。
「なっ!わ、笑うなよ!」
「ごめっ…だって…!」
「耕太、こっちを見なさい。」
優しく促すホシゾラの声に、耕太は渋々ホシゾラの方に顔を戻した。ホシゾラの表情は穏やかで、海のような瞳は、さざ波一つ立てずに、静かに煌めいて耕太の顔を写し込んでいる。
少し見つめあった後、ホシゾラは小さな声で囁いた。
「わかっているわね、耕太?」
「……何が?」
耕太はわざととぼけてみた。ところが、逆に先生のように厳しい表情をされてしまい、慌てて訂正した。
「わ、わかってるって!昨日の話だろ?言われなくてもそのつもりだし……そのつもり、です。」
丁寧に言い直すと、ホシゾラはようやくにっこりと微笑んだ。耕太もばつが悪そうにへへっと笑った。昨日のホシゾラの言葉を思い出しながら。
『耕太、あなたが要なのよ。美香も王子もジーナも、賢くて強い人たちだけど、あなたには彼らにない力があるわ。あなたが皆を支えてあげて、この先の危険な道を照らす光となるのよ。』
(わかってる……。最初からオレは、全力を尽くすつもりだった。)
美香のために。
しかし今は美香だけじゃない。王子とジーナがいる。守る対象は増えたのだ。それと同時に、守ってくれる対象もまた。彼らはきっと自分たちを助けるために全力を尽くしてくれるだろう。
だからこそ、耕太自身も戦うのだ。仲間のために。
「……寂しくなるわね。」
ホシゾラがぽつりと言った言葉に、耕太は慌てて顔を上げた。
「何言ってんですか。また遊びに来ますよ?全部終わったら、必ずまた邪魔しに来ます!」
「世話をかけんように努力しろ。」
ジーナがそう言って耕太の頭をごつんと叩き、みんなが笑った。美香はホシゾラの笑顔を目に焼き付けた。忘れないように。
それがホシゾラとの別れとなった。