翌朝、川島美千子が無断欠勤しているのを知って、石崎武志は愕然とした。
デスクの一番下の引き出しを開けてみたが、やはり弁当はなかった。
昨夜の今日である。
それにもし体調が悪いのであれば、会社に連絡が入るはずだ。
おかしい!
今までにない事だった。
彼は仕事の合間を抜けては、何度も彼女の家へ電話を入れたが、いくらコールしてもでなかった。
すぐにでも彼女の家に行きたいところだったが、仕事が彼を拘束した。
結局、石崎武志が仕事を切り上げて会社を出たのは、七時を過ぎていた。
車でいつもの待ち合わせ場所に行ったが、やはり川島美千子はいなかった。
不安が胸を押さえつけた。
彼はいつもよりアクセルを踏み込んで、彼女の家に向かった。
『サマンサ・キッチン』は真っ暗で、どの窓にも明かりはなかった。
車から飛び降りると、彼は入り口のドアに走り寄った。
ドアには鍵がかけてなく、簡単に開いた。
やはり中は暗黒の闇であった。
彼は手探りで移動すると、電気のスイッチを入れた。
一瞬にして部屋は明るくなり、見慣れた店内になった。
しかし、彼女はいない。
名前を呼んでみたが、返事がない。
それどころか、人のいる気配がまったくない。
いったい、どうしたのか。
彼は途方にくれ、いつも座る椅子に座り込んだ。
突然、なんの連絡もなく、いったいどこへ…
ふと壁を見上げると、棚にずらっと並んでいたはずのスパイスのビンが、一本もなかった。
荷物をまとめた。
彼はそう直感した。
慌てて表に出ようとして、そこで初めてドアにピンで止めてある手紙に気が付いた。
川島美千子からの手紙だった。